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レースの歴史

16世紀半ばイタリアの都市 Venezia

「レース」という言葉は、縄やロープなどで編まれた捕獲用の網を意味するラテン語のラク(LAQUEUE)や古代フランス語のラシ(Lassis or Lacis)が転じたもの、または英語で「しばる」という意味のレーシア (Lacier)から生まれたなど、様々な説があります。太古の昔、狩猟や漁獲のために用いられていた網や、痛んだ衣類をつくろう「かがり」の技術が、やがて装飾的な意味を持つようになり、私たちの知る美しいレースへと発展していったものと言われています。

ヴェネツィアの刺繍師たちが1540年頃に発明したレティセラをはじめとし、ニードルレース、ボビンレースがイタリアやフランスで産業化され、やがてヨーロッパ全域に広がっていったのは16世紀半ば頃。当時はまだ機械のない時代のことですから、レースを作るのはもちろん手作業です。気の遠くなるような時間と手間、熟練した職人の技術、そして人員が必要でした。レースのハンカチ一枚が財産目録に載るような、そんな時代だったのです。

レースは権力と贅の象徴として、王侯・貴族に愛されました。
宮廷を訪れる貴族たちにグロ・ポワン・ド・ヴェニーズのレースを身に着けることを礼儀として定めたルイ14世や、フレーズと呼ばれる大きな円形の襟を好んだエリザベス一世。マリー・アントワネットのレース好きによる浪費はフランス革命のきっかけの一つとなり、革命によって当時のレースはほとんど焼き尽くされてしまったと言われています。

 

ヴィクトリア女王

左は1840年、ホニトンレースのウエディングドレスを着用したヴィクトリア女王の肖像画です。36人のレース職人さんが一年半かけて作り上げた逸品で、右の写真のように、女王は即位60周年にもこの美しいレースとヴェールを身に纏いました。それまでカラードレスが主流だった花嫁衣装に白を用いる伝統が生まれたのは、ヴィクトリア女王のウエディングドレスがきっかけと言われています。

 

1813年レース機の誕生

18世紀にはじまった産業革命を契機に機械化が進み、複雑な模様のレースも安く大量に作れるようになると、一国の経済を左右するほど高価だったレースという存在が一般市民にも流通し始めました。1813年にはジョン・リバーによって今日のレースの原型となっているリバーレース機が誕生。20年後にはエンブロイダリーレース機も発明されています。

 

明治13年日本初のレース工場

鹿鳴館での舞踏会の様子を描いた浮世絵
日本政府と東京府(現在の東京都)による官立のレース教場が設立され、英国人教師のスミス夫人によるホニトンレースの指導が始まったのは明治13年。横浜に初めて手工レース工場が作られ、新潟ではバテンレースが冬の内職として製作されるようになり、日本の手工レースは大正初期には全盛期を迎えますが、1923年の関東大震災によってほとんどの工場が壊滅的被害を受けてしまいます。

 

かわいらしさの追求

日本にレース機が導入され、本格的に機械レース産業が発展したのは大正時代末期です。第二次世界大戦後、1950年代には高度経済成長の流れを受けて規模が一気に拡大、輸出入のバランスが逆転し、ついにはエンブロイダリーレース機も国産化してしまいます。昭和30年代には、道を歩けば多くの女性が総レースのお洋服を着ているのが当たり前の光景になり、レースは女性のファッションアイテムとして定着していきました。

 

日本とレース

日本で初めてレースが作られたのは明治5年のこと。
横浜に居留していた外国商により初めてドロンワークの製造が伝えられました。
当時、日本はまだ和装の時代です。欧化対策の一環として、鹿鳴館では一部の上流階級の貴婦人たちがエンブロイダリーレースのドレスで夜会を楽しみましたが、文明開化はまだ遠く、ほとんどの市民は着物を着ていました。しかしながら、着物の襦袢や半襟にレースを用いたり、手編みのショールを羽織ったりと、明治の後半には少しずつ、衣類にレースを取り入れる文化は浸透しはじめていたようです。

 

レースの種類

レースにはいろいろな種類がありますが
主な分類方法を紹介します。

機械、刺繍糸の組織の違い

刺繍レース

エンブロイダリーレース、ミシン刺繍レース

編みレース

リバーレース、ラッセルレース、トーションレース

用途の違い

広巾レース

総レース

細巾レース

付属レース

アップリケレース

モチーフレース

当社の製品であるエンブロイダリーレースでは
基布の違いによる以下の分類が一般的です。

綿レース

綿の生地をベースにしたレース。エンブロイダリーレースが誕生した当初、綿が主流だったことに由来します。現在は、様々な素材が使われるため、生地レースともいわれます。ボーラーという錐(きり)で穴を空けると同時に刺繍する「ボーラーレース」が代表的。

刺繍技法の「カットワーク」を冠にしたカットワークレース。アパレルメーカーや店頭で頻出する名称ですが、レース専業メーカーには通じないこともあるので注意。そもそも、カットワークレースは生地をはさみで切り抜き(カット)、輪郭を糸でかがる(ワーク)手工レース。エンブロイダリーレース機では、錐で突いて〝穴〟を空けるため、ボーラーレースと呼ばれることがほとんどです。

 

オリオンレース工業製造
綿レース

チュールレース

チュール(六角形の網目が連続するネット)を基布に柄をあしらったレースの総称。エンブロイダリーレース機では、水溶性の生地を貼り合わせたチュールに刺繍やアップリケを施した後、生地を溶かし、刺繍したチュールだけを残します。ラッセル編み機で柄を編みこむ製法もあります。
 

オリオンレース工業製造
チュールレース

ケミカルレース

水に溶ける基布に綿糸などで連続模様を刺繍した後、基布を溶かし、刺繍糸だけを残したレース。重厚で豪華な見た目から、ドレスやフォーマルウエアに採用されることが多いですね。モチーフを切り離し、パーツにも用いられます。
その名称から、エコやオーガニック志向のブランドに敬遠されることが少なくないというケミカルレース。ケミカルといわれる由縁は、開発当初の製法から昔はシルクや綿で作った基布に刺繍し、薬品で基布を溶かしていました。現在の基布は水溶性ビニロンなどで、溶剤は水。残った刺繍にも化学の要素はありません!海外では一般に、ギュピールレース、ギューピーレースと称されます。安価なイメージをもたれがちですが、実はエンブロイダリーレースの中で一番価格が高いのです。

 

オリオンレース工業製造
ケミカルレース